青い脂

ハリウッドの脚本術に忠実な娯楽SFびっくりするほどシド・フィールドの教科書どおりに書かれている娯楽小説に慣れた読者にとっては馴染み深い筋運びで構成に無駄はないし挟まれる短編小説もそれなりに愉快だ肉片機関車と人文字の話はよかった)。 しかし残念ながらやはり古い時代の小説といわざるを得ない暴力性を訴える手管として糞尿と性暴力と同性愛をおなじ範疇として一緒くたに扱っている昭和の中学生ならそれでも大喜びだったろうが現代の大人が読むには耐えない意図はわかるんですよ皮肉とか異化作用とか神を引きずり下ろす感じとかよく知らないけれど根本敬みたいにしたかったのだろうと思える筒井康隆も初期はあんな感じだったしかしその発想自体が時代遅れだし肝心の露悪趣味にしても現実の暴力をしのぐほどの醜悪さとはいえないしわざわざ舌下に麻薬注射までして奇声など上げずともかの独裁者がやったことは社会病質ならではの支離滅裂さだと思う)、 同性愛を変態扱いするのがもう何より致命的にだめだ20年前の作品だから仕方ないのかなとも思うけれども本作が書かれたのとおなじ年にまったくの無名人であるわたしは黒い渦の初稿をさらに前年にはPの刺激を書いていて本作における山場の処理はその二作に極めてよく似ているであればせめて拙作よりもましなものを期待してもばちは当たらぬはずだAIが書いた設定の短編小説はパスティーシュとしての魅力はいまひとつだけれどよくできたパスティーシュは元ネタを知らずとも楽しめるものなのにそれほど感銘は受けなかったし何冊か読んでいるナボコフのパスティーシュでさえもいまひとつぴんとこなかった)、 生身の人間が書いただけあって本物よりも筋が通ってしまっているとはいえ、 『Zone Outハリー・ポッターと巨大な灰の山らしきものの肖像に見られるような統合失調症めいた質感をなかなか正確に予言していてそこだけはちょっと感心させられた当時は現実にはそのようなものがまだ存在しなかったわけだからねしかしその語りよりも上の階層でも大差ない狂いっぷりを見せつけられるとどこに読書の足場を見出せばいいのかわからなくなり辟易するしそれを意図したのだといわれてもいやでもあなた娯楽小説の枠組みは棄てられなかったよねと思ってしまう放り出すほどつまらなくはないけれど発想の古さのせいで中途半端の印象を拭えない