冒頭で語り手が風変わりな年長者に出逢い、 後半でその人生の謎が明かされる。 元ネタの 『こころ』 がそうであるように推理小説の趣もあるのだけれど、 それほどすっきり割り切れない。 謎が謎のままで終わるからではなく、 書き方というか人物への踏み込みが不充分だからだ。 肝心なところを迂回して書かれた印象がある。 ジェンダーの話もそうだし、 主題であるところの女性の人生もそうだ。 解き明かそうとするほど見えなくなる種類の謎ではあるから、 いいといえばいいのだけれど、 何かいまひとつ食い足りない。 登場人物が基本的にみんな善人で、 思いきった残酷さ、 汚さを回避しているからかもしれない。 小説のありようとして、 お上品にいい顔をしすぎている。 あいだに挟まれる帝国図書館のくだりや、 主題の女性が書いた小説の断片めいたものも、 もうちょっと思いきって、 やりすぎなくらい過剰に書いてもよかったのではないか。 とりわけ帝国図書館の話は、 中途半端にまんが的な書き方がされているのが性に合わなかった。 笑いを意図するのであれば文体はあんな崩し方をしないほうがいい。 擬人化するのかと思えば 「もしも図書館に心があれば」 といった仮定の話に急にトーンダウンしたり、 どっちつかずの印象が拭えない。 文体の遊びという面でいえば小説の断片のほうはそれらしかった。 対比によって、 元三流ライターである語り手の技量を示す意図だろうけれど、 そうであるにしても、 もっと極端に踏み込んだやりようがあったのではないか。 本来は三倍の長さを要する小説だったと思う。 何かを批判したと受けとられないようにあえて配慮したのではなかろうか。 ジェンダーについて紋切り型の不自然な説明がいきなり出てくるあたりもそうだ。 書けるはずの作家が口ごもっているような、 口ごもらされているような、 もやもやした感触が残る。 ソーシャルメディアで話題になった作品が表紙を飾っている。 たしかに魅力的なオブジェではあるけれど、 そうしたものを装幀に用いるあたりからして、 文芸作品としての鋭さよりソーシャルな体裁を優先した企画なのだなと感じた。 もっといい本になれたはずなのに、 残念だ。
