聊斎志異みたいな断片的な挿話のつらなりを、 筋があるんだかないんだかわからないような外枠で緩くつなげて、 ふわっとまとめた構成。 外枠の主人公は実際に旅もするし歳を重ねることもまた旅のように語られるので、 ガリヴァー旅行記を連想した。 けれどもあんな風刺や冒険は微塵もない。 読んだことはないが千一夜物語のほうが近いかもしれない。 怪奇小説めいた細部は興味ぶかく読んだけれども、 辻褄のあう説明などはなから期待できない感じで、 案の定、 どれもこれも雑に放り出してある。 いちおう劇的な展開もないではないのだが、 作品の関心はとりたてて人間に向かっているようには感じられない。 謎が解き明かされたり先の展開が気になったりするような、 情動で読む小説ではなさそうに思えた。 加えて、 これは作品にも著者にも罪はないのだが、 仕事ができたり恋愛や結婚や生殖をしたりといった主人公には、 読みすすめる上で最低限あってほしい感情移入の余地を見いだせず、 とりあえず最後まで読んではみたものの、 はたしてこの本を楽しんで読めたのかどうか心許ない。 仕事のできる男性が世界のさまざまな場所でさまざまな女と交わって、 あたかも知りたくない影のような、 怪物的なよそよそしい子どもをつくって歩き、 そのことにあとから気づかされるという、 ドッペルゲンガー的な題材は、 まぁなんとなく、 おもしろいような気がしないでもなかった。 しかしそういう小説なのかと問われれば、 それもまた断片的な挿話のつらなりの一細部でしかない。 村上春樹の描く 「影」 があくまで同世代特有の暴力性を甘美に正当化したり、 自分が同性愛者である可能性に怯えたりする表現であるのに対して、 こちらは単に怪奇小説のディテールへのフェティッシュな何かのように思えた。 レジ袋を白兎と見間違える高野文子 『るきさん』 みたいな話がくり返されるが、 それにもおそらく雰囲気以上の意味はなさそうだ。 かといって別につまらなかったわけではなく、 この著者の作品に親しんでいればもっと楽しめたのかもしれない。 ひとことでまとめると怪奇博覧会のような小説だった。 入館料を払って内部をくぐり抜けて明るい表に出てきてしまってから、 楽しみ方がわからなかったので損をした気分になったようなものだ。
