昨年末に読んだ。 妙な探偵もの。 土地柄のせいか妙に呪術的で魔術的リアリズムを思わせる。 易経やら預言書めいた本やら、 ディックあるいはおなじ土地の作家エフィンジャーを想起させる。 「私立探偵」 なる職業が著名スターのごとく扱われる世界が描かれていて、 これは実際の米国社会を映したものか、 それともマーヴェルやDCのヒーロー映画のような荒唐無稽なつくりごとなのか、 ニュアンスがわからず困惑させられる。 マイケル・コナリーのボッシュものにも 「テレビに登場する著名な刑事」 なんてのが出てくるし、 民間軍事会社と同様に理解しがたい概念ではあるけれど、 private detectiveとは 「民間の刑事」 の意味だそうだから、 あるいは米国人にとってその設定はコロンビア人にとっての 『百年の孤独』 とおなじくらいに身近で真実味があるのかもしれない。 カトリーナでひとびとの暮らしや人生がどれだけ破壊されたか。 東北人としては洪水の高さを示す印や避難所、 出て行ったひとたちや出て行こうにも離れられないひとたちの描写が、 まるでよその土地とは思えない。 ましな人生を選び取るよう薦める年長者に対し、 よそには確かに豊かさも可能性もなんでもあるかもしれない、 でもこの土地で積み重ねた人との繋がりだけはないんだと応じる若者。 両者の子ども時代の記憶を結びつける因縁の書物。 呪術的な語り口でなければそのような物語は書かれ得なかったのかもしれない。 探偵のふるまいが性別で制限されないのもいい。 残念なのは邦訳の彼女が役割語でしゃべること。 フィクションにおける役割語は必要悪だと思うけれどこの物語においては必然性がない。 タフで皮肉でワイズクラックな 「探偵」 としての役割語を優先してほしかった。
