ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇

メキシコ風の名前ならジーザスはヘスースと訳すべきではと思ったけれどもこれはこれで正しいのかもしれないノワール文体の喜劇かと思いきや意外にもふつうの娯楽ミステリだったので驚かされた主人公はなるほど確かにホールデン・コールフィールドを強く連想させるけれども実際はそのように偽装されていただけで結末に至ると案外ごくまっとうな悪くとれば安易ともいえるエンターテインメント・スタイルの探偵だったことが露呈する事件はきっちり綺麗に解決するダン・ブラウンかよというくらい大変にわかりやすくハッピーエンドなのである読みすすめるあいだ気になっていたのはどうオチをつけるのかということだったこの手の話で安易に主人公が助かると裏切られた気分になるかといって謎が解かれぬまま終わるのも不愉快だその両方の心理を満足させる結末だった主人公を生贄にして世間の残酷さ虫のよさをさんざん見せつけた挙げ句に筋書きはちゃんと納得のいく落としどころへと運ばれる使い古されたパターンなのだが見せ方が巧みなので気にならないというかこの語り口でありながら大勢に好まれる馴染みのパターンをあえて回避しない気取らなさに好感が持てる悪い女に騙された探偵が昔なじみの女に落ち着くとかね容姿で態度を変えすぎじゃないかとの不快感は残るが)。 一人称の語り手が知り得ないはずの場面をどう語るかという問題もおれ好みのやり方で処理してある汚い言葉遊びはお前らの墓につばを吐いてやるマザーレス・ブルックリン家族への複雑な思いはこれいただくわ資本主義社会への皮肉たっぷりの奇想はJ Rイリワッカーを思わせた。 「わかりやすさを求める世間によって追い詰められる無実の主人公に笑いながら共感し似た題材でおれよりも百倍うまく書いているなと感心させられた一方で加害者をおれならあのように善良には描かないなとも考えた実在の事件に着想を得た物語を二冊つづけて読んだわけだけれど気取ったベル・カントよりこちらのほうがずっとよかったここまで口汚くなくともよかろうとも思うけれど