ひさびさにいい小説を読めた。 中編小説の切れ味はあえて踏み込まずに瞬間を切りとって見せることにあるのかもしれない。 その一瞬からすべてを読者に悟らせるような。 その意味でニヴン氏の造形と描き方はすごくよかった。 エセルと対比する配置にもなっている。 そう考えると相手の男がどんな人物なのかよくわからないのは掘り下げなかったのではなく見せ方なのかもしれない。 死に向かう人間が何をどう考えているかなどくだくだと描くものではない。 他家の使用人に手をつけるという遊びだったはずの関係が案外本気の苦しみになったのではないか、 あのふるまいは死に化粧のようなものだったのではないかと推察させるにとどめるのが中編の鋭さだ。 男が死んで女はしたたかに生きつづけるあたりいかにも男性作家による恋愛小説だなと思う。 中編はやはり短い長編でも長い短編でもなく独自の佇まいがある形式だ。 十代において自分を形づくったのは中編だと思うし書くならやはり中編の鋭さが好みだ。 しかしそうではあっても長編の豊かさがこの作家の本領であるのもまた事実。 未訳の長編をもっと読ませてほしい。
