おれの街は東北で最大の人口を抱える政令指定都市だ。 特色が何もないので記号的な 「なじみのない遠い街」 として漫画によく登場する。 歴史も文化もいっさいない。 本なんか読んでいるとインテリぶりやがってと批難される。 中心部アーケード商店街でただ一軒残っていた書店が潰れるそうだ。 もう何年も前から売場の大半が雑貨や文房具で占められていたし、 荷ほどきされていない商品が床に積まれていたから末期だとは感じていた。 むしろ持ちこたえたほうだ。 昨今は本とはつまらぬものだとの認識が世間に広まり定着した。 人間性や独創性が排除され、 何もかも均一になってしまったからだ。 ビッグテックに利益をもたらさぬものは非表示にされる。 売れないものを出版しても意味がない。 書評家も読者もアルゴリズムに乗っかることが第一義になり、 いいねや拡散を目的としないおもしろさを伝え広める文化は絶滅した。 いいねや拡散の恩恵にあずかれるのはごくひと握り。 大抵の人間にそのような価値はない。 自分とは無縁の輝かしい世界について書かれたものなど読んでもピンとこない。 自分の無価値を思い知らされ疎外感をおぼえるばかり。 そんなものに金を出す余裕はない。 物価はビッグテックと結託した世界の指導者たちに戦争なる事業でつり上げられる一方。 そこになければないですねぇ。 自分のための本を求めていた読者は解散。 残ったのは調教された読者だけ。 ビッグテックに利益をもたらすタップをくりかえすだけの機械みたいなひとびと。 いわば生身の身体を持たぬAIを物理的に外部拡張した装置。 煽られるがままに図書館を焼き議会を襲撃する手足だ。 そのための最適化を求めるならAIに生成させたほうがいい。 売れた実績のある企画を安く何度でも好きなだけ思うがままに出力。 コンプラ的なリスクもない。 残った読者もAIを選択した。 馴染みがあってわかりやすい。 何も考えなくていい。 ただ条件反射的にいいねや共有をタップするだけ。 結果、 図書館が焼かれ書店が消えた。 ニーズがないから淘汰された。 淘汰といえば落選したらしいのだがその事実を確認する手段がなくなった。 仕事帰りに書店へ立ち寄り、 自分の名が載っていない雑誌を手にし、 その夜にAdobeを再契約して組版するつもりだった。 そのあてさえもなくなり改稿が億劫になった。 どうしても直さねばならぬ箇所にはもう手を入れた。 あとは日本語としてさえ成立しておらぬ拙い文章のまま出版することになる。 どうせだれも読まない。 一年九ヶ月も費やした作業がまるで無意味だった事実を突きつけられたいま、 自分でさえ開かぬ無価値な本にそれ以上の労力をかける気力はない。 他人の目に触れねば貶められる畏れもない。 高学歴大企業の若い社員様に頭を下げる必要もない。 年齢相応の社会性や指図に従う能力がないせいで呆れられ蔑まれる畏れもない。 自己肯定感の条件に他人を介在させるとろくなことがない。 他人は自分の意思や努力ではどうにもならない。 どうにかできると考えるのは自己愛と支配欲の化け物だ。 幸いおれはそうじゃない。 自己完結できる楽しみと幸福を見いださねば。 装画を作成したいのだが文具屋も画材屋もこの街にない。 何年も前に商店街から姿を消した。 ビッグテックばかりがいい思いをする。 小説に書いた未来はすぐそこだ。
