転ぶ大人

先月末に四連休がありあれこれ予定を立てて楽しみにしていた業務の都合で日勤があいだに挟まった結果休みは二日半に心理的な負担になる業務だったのでいまだに引きずっている発達性協調運動障害が悪化した休み明けの初日は路面のわずかな段差につまずいて派手にすっ転んだ大人はふつう転ばない気に入っていたジャケットの袖が破れ肘を擦り剥き腰の右側を打った同時に両脚が攣ってひどい筋肉痛になった文字通り這うようにして出社した体をひねって転倒したためにジャケットの左内ポケットに入れていたiPhoneは無事だった翌日はネクタイを締めることに気をとられなんとベルトを締め忘れたクールビズならぬフールビズひげを剃り忘れて出社した経験は何度かあるがベルトは初めてだ三日目はまた転んだ気をつけて歩いていたのに駅に着いて気を抜いたとたん床に落ちていたクリーム状の物質正体はわからないで滑って転んだクルーゾー警部を笑えない怪我はしなかったがちょうど列車が到着したばかりで改札を出てきたひとびとの注目を集めた四日目は車に撥ねられるのではと畏れたが不運といえばクレーム対応くらいで済んだ

午後からまた四連勤怪我の痛みはひいたが疲れは抜けないやりたいことやらねばならないことは多いのに何ひとつやれずに一日半の休みが終わった。 『Pの刺激出版にともなうISBN関連の手続もしていないし国会図書館に送付してもいない。 『悪魔とドライヴのときと異なり出版を楽しめなかったのでつい億劫になる連休に読むつもりだった2666は三分の一しか進んでいないおもしろいのだけれども物理的に重すぎて読みづらいことこの上ないベッドで腹ばいになるのが比較的ましな姿勢だ擦り剥いた肘が痛むのでそれも気乗りしない読書のできる机がほしい手持ちの昇降式ガラステーブルは小さすぎてMacBook一台が占拠している本のあるべき場所にMacがありそのために読書よりもインターネットで過ごす時間が多い楽しめればそれでも構わないが充分に心は晴れない

ロシアのシューゲイザー・バンドAEROFALL二枚目のアルバムをSoundCloudで試聴した哀しげな目のちょっと肥った若者が日本のシューゲイザーというyoutubeチャンネルをやっているきのこ帝国もそこで知ったAEROFALLはその姉妹チャンネル東欧のシューゲイザー」 (これはだれがやっているか知らないで知って好きになったyoutubeの目利きに教わりSoundCloudで試聴し月額980円のSpotifyでずっと楽しむという流れが音楽では当たり前になったレコード会社も違法アップロード動画を配信停止にするのではなくCMを挟ませて広告料をとるのが一般的になったそうだ。 「販促専用気に入ったら買ってアーティストを支援して!」 「権利者はご連絡ください対応しますなどの文言をよく見かけるこのような消費の導線は十年前には考えられなかった読書でも何かそういう導線があればいいのに出逢いさえあれば買って読みたい気持はあるいまの職場のおかげで暮らしに余裕があるからだ

コリン通りベーカリーにクリスマスのフルーツケーキを予約注文した自然界には存在しない毒々しい色のドライフルーツとどっさりのペカンの実とわずかな小麦粉を糖蜜と油脂で固めた岩のような食べ物だ包丁の刃が欠けるのでカットされたものが売られていたのは助かった不要なコーヒーを追加しなければカートに入らなかった上に二千円も送料を取られたこうした買い物だって前世紀には考えられなかった三十年前にワールドミュージックなるものが流行したとき世界中のごくふつうの流行歌を部屋に居ながらにして楽しめるようになればいいなと夢想したいままさにそのような時代に生きているその気になればSpotifyでテキサスの地元バンドを聴きながらGoogleマップでコリン通りを歩くこともできるこんな時代にいまだにテロや紛争や核兵器開発がつづくのが理解できない技術の恩恵にあずかれない貧しいひとびとが暮らしのつらさや理不尽から諍いを起こすのは理解できるでも彼らに爆薬の腹巻きを与えて休日のショッピングモールへ向かわせるのは裕福なひとびとなのだあるいはインターネットは彼らの商売をも助けているのかもしれない以前には考えられなかった導線があるのかもしれない

iTunesで映画を物色したおもしろそうなのがたくさんあった棚づくりのうまさにいつも感心する関心の持てない商品を売れ行き順に機械的に並べるAmazonとは大違いだAppleのあれは人力のキュレーションなのか何かしら自動化されているのかHuluと品揃えが被っているときがあるのでおそらく取次業者が推したものを並べるのだろう電子書籍でも値引きや無料の漫画はどのストアでも被っている業者が推したものを素直に読んでいる考えようによっては読まされているBookpassの読み放題で知ってBookLive! で全巻みたいな買い方をここ数年しているそれで知った作家は数多い最近はオノ・ナツメヤマシタトモコの才能に唸らされたふたりともベテランなので通にとっちゃ何をいまさらだろうけれども大人がふつうに生活していれば漫画なんて手に取る機会はまずない電子書籍のおかげで書店で恥ずかしい思いをせず思い立ったらすぐ買って読める時代になった仕掛けているのが出版社か取次かは知らないが力を入れて宣伝されていればつい読まされてしまうきっと小説にもすごい才能がいっぱいいるのだろうけれども知る機会がない。 「ああおれとは違うひとたちのための本ですねといった具合に距離が鼻につくような本ばかり宣伝されている書評の価値が見なおされつつあるので本好きのためのサイトが導線を持つことができたら状況も変わるかもしれない