巨匠にはずれなし。 ウィリアム・ギブスンもニール・スティーヴンスンもみんな彼の影響を受けた。 彼の語りはほら吹きおじさんのユーモアを思わせる。 殺伐とした犯罪小説が苦手な方でも安心して読める。 ちょうど 『メイスン&ディクスン』 の牧師のおおげさな語りに、 子どもたちが 「うっそだあ!」 と喜ぶがごとく、 何も考えずただ身を任せて堪能すればいい。 年寄りの自覚がない小金持に、 ただ与えられるだけじゃいや、 自分の才覚で勝ち取りたいの、 と小娘みたいにもってまわった甘え方をする五十過ぎの元女優。 当て馬大活躍の巻⋯⋯もちろんそんな主人公にも、 軌道修正してくれる可愛い女の子がいるのだけれど。 でたらめに生きてあっけなく殺される悪党のほうが主役よりも輝く。 なんてすてきな作風だろう。 おれたちの多くは人生の脇役に過ぎず、 そのことを恥じていて、 カメラを向けられるとむりにスターを演じようとする。 けれども作家はほんとうは、 スターでも主人公でもないからこその魅力を撮りたいのだ。 その瞬間を見逃さない、 抜け目ない視点こそが作家なのだ。
